「退屈な時間」が脳に好影響…最新研究が明かす意外な事実

スマホや予定に追われ、「退屈する暇もない」現代人。しかし、そんな退屈こそが、実は脳にとって良い作用をもたらす――。オーストラリア・サンシャインコースト大学の研究チームは、一般的にネガティブに捉えられがちな「退屈」が、神経系を整え、創造性や感情の安定を促す“心と脳の休息時間”である可能性を指摘。あえて立ち止まる「一時停止(Embrace the pause)」の重要性を提唱している。

退屈時の脳のメカニズム:内部の思考と自己反省

退屈とは、興味が薄れたり、精神的な刺激が少なくなったと感じるときに誰もが経験する感情です。集中力が続かず、時間がゆっくり過ぎるように感じることもあります。

しかし、こうした退屈な状態のとき、脳内ではさまざまなネットワークが働いています。たとえば、映画を観ていて退屈を感じ始めると、まず外部の刺激に注意を向ける「注意ネットワーク」の活動が低下します。

その一方で、内面の思考や自己反省に関わる「デフォルトモードネットワーク」が活性化します。これはいわゆる“内省”の状態で、退屈に対処する自然なメカニズムと考えられています。

さらに、感覚や感情の処理を担う「島皮質」が活性化し、退屈という“内なる信号”を感知します。また、感情を処理する「扁桃体」は、不快感や苛立ちなどネガティブな感情に反応し、私たちに行動の変化を促します。そして「腹内側前頭前野」は、より刺激的な活動を求めるよう私たちを動機づけるのです。

via The default mode network in our brains (highlighted here) shifts our attention towards internal thoughts and self-reflection when we’re bored. John Graner/Wikipedia

現代社会の“過剰刺激”と神経系の疲弊

現代社会では、常に新しい情報を取り入れ、複数の活動を同時にこなすことが求められます。大人たちは仕事と家庭を両立し、子どもたちも学校や習い事でスケジュールがびっしりです。

わずかな隙間時間すら、スマートフォンでのチェックや更新、スクロールに費やされ、脳は一時も休む暇がありません。こうした「常にオン」の状態は、無意識のうちに次世代にも伝わっていきます。

しかし、このような絶え間ない刺激は、神経系にとって大きな負担となります。特に、ストレスに対応する「交感神経系」は、刺激が長期間続くことで過剰に活性化し、「アロスタティック負荷」と呼ばれる状態に陥ります。これは神経系が疲弊し、常に興奮状態が続くことで不安リスクが高まることを意味します。

研究者たちは、退屈な時間を完全になくしてしまうことは、こうした神経系を自然にリセットする貴重な機会を奪うことになると警告しています。

退屈は創造性と精神的健康を育む

研究者たちは、少量の退屈は、情報や刺激があふれる現代社会において必要な“バランス”だと語ります。それは、私たちの神経系やメンタルヘルスに対して、さまざまなプラスの効果をもたらしてくれます。

時には、自分に「退屈すること」を許してみましょう。そこには次のようなメリットがあります。

・創造性の向上: 思考の「フロー」を構築し、創造性を高める 。

・思考の独立性の発達: 絶え間ない外部からの入力に頼らず、他の興味を見つけることを奨励する 。

・自己肯定感と感情の調整: 構造化されていない時間は、感情と向き合い、不安を管理する上で重要となる 。

・デバイス使用からの解放: 強迫的なデバイス使用の一因となる即時満足のループを断ち切り、デバイスなしの時間を増やす 。

・神経系のバランス調整: 感覚入力を減らし、不安を鎮めるのに役立つ 。

※ただし、長期的な退屈が続くと、デフォルトモードネットワークの過活動がうつ状態と関係する可能性もあるため、適度であることが重要です。

世界中で不安のレベルが上昇しているいま、意識的に「一時停止の時間」を取ることが、かつてないほど求められています。予定を詰め込みすぎず、あえて“何もしない時間”を過ごす。それは創造性が芽生え、感情が整い、神経系がリセットされる大切な時間です。

忙しさの中であえて立ち止まること――それが、今の時代において、私たちの脳と心の健康を守る鍵なのかもしれません。
This article is a translated version of an original piece by Michelle Kennedy and Daniel Hermens, published on The Conversation in May 2024 under a Creative Commons license (CC BY-ND 4.0). URL:https://theconversation.com/boredom-gets-a-bad-rap-but-science-says-it-can-actually-be-good-for-us-255767